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佐伯ポインティ
エロデューサー。1993年、東京生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業後、クリエイターのエージェント会社コルクに漫画編集者として入社。2017年に独立し、男女楽しめるエロスのあるコンテンツをつくる「エロデューサー」として活動を始める。ポジティブに猥談を楽しむ人が集まる「猥談バー」というイベントをしたり、様々な性癖・性体験の人をインタビューし「猥談タウン回覧板」というメルマガを配信したり、エロい仕事ばかりしている。
Twitter:https://twitter.com/boogie_go
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太田 尚樹
やる気あり美編集長。ゲイ。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。
- 素敵なダイナマイトスキャンダル
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幼い頃に「母が隣の家の息子とダイナマイトで心中」という体験をした末井昭。 高校を卒業しグラフィックデザイナーを目指す彼は、ひょんなことからエロ雑誌業界に足を踏み入れる。 様々な経験の末、彼は編集長となり、担当する雑誌の発行部数は30万部を越える。その時、彼が思うこととは。 70年-80年代の風俗事情と共に彼の人生を描いた自伝的映画。
2018.9.10
楽しい仕事なら、楽しく仕事したら?
この記事はネタバレを含みます。
- 太田
- この「ノンケと映画に行く。」はさ、映画の感想を皮切りにもっと仲良くなろうよっていうかわいい企画なんだけど。
- 佐伯
- かわいいね完全に。
- 太田
- 今回は、佐伯が”エロデューサー(※)”をやってるので、エロ雑誌編集界のレジェンド末井さんの映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』を選んだわけ。とりあえず感想、どうだった?
※)男女楽しめるエロスのあるコンテンツをつくる職業。ポインティによる造語。 - 佐伯
- そうね〜。
- 太田
- うん。
- 佐伯
- すごい楽しい仕事やってるのに、末井さんがあまりに楽しくなさそうだから「末井ぃ〜!」って励ましたくなったかな。
- 太田
- (笑)。
- 佐伯
- 作中で末井さんが楽しそうにしてるシーンってほとんどないし、唯一あったのも、浮気相手の掴みきれない感じにハマってる時ぐらいだったじゃん?それも「退屈から抜け出させてくれそう」って感じで、「仕事つまんないサブカル男子の孤独逃避行」みたいに見えちゃった。35万部も売れてるエロ雑誌編集者なんか絶対楽しいのに、もっと楽しそうにしてなよ〜!って思った。
- 太田
- なるほど〜。その感想、はやくも佐伯らしい感じする。
- 佐伯
- そう?
- 太田
- うん。「楽しい仕事は、楽しそうにやろうよ」って、「おいしいものは、おいしそうに食べようよ」と同じですごい大事だと思うし、いつもニコニコしてる佐伯らしい。でもそれってできない人も結構いるよね。「本当はおいしいけど、まずそうに食う人」っているじゃん。僕は、たしかに楽しそうに仕事してないなと思ったけど、「楽しい」とは思っていたのでは?と思った。
- 佐伯
- なるほどね。
- 太田
- 末井さんって、仕事も恋も遊びも「情熱」でやる人っていうか「情念」でやってる人じゃん。お母さんが抱えていたであろう情念を自分にもインストールして生きてる。お母さんが浮気相手とダイナマイトで自殺したシーンを何回も想像してさ。だから「楽しそう」には仕上がらない。でもそのドロドロした情念がエロ領域とマッチして、楽しくはやってたんじゃないかなって思うんだよね。
- 佐伯
- なるほどね〜。でもさ、かなり成り行きでエロ本の編集長始めたわけだし、それも商売だからやってますって感じじゃなかった?
- 太田
- まぁそうともとれるか…。でも佐伯は情念タイプに共感できなさすぎるっていうのが大きい気がするな。ぼくは情念タイプあがりだからさ。
- 佐伯
- あがったんかい(笑)。
- 太田
- うん、大方あがったね。だから末井さんとは少し似た部分もあって、勝手に分かってる気になってんのかも。ていうか、やっぱ佐伯にとってエロ仕事は「楽しい仕事」なんだね。
- 佐伯
- そうだね。エロって陰と陽の部分があって、俺が陰に向いてないから「楽しい仕事」なんだと思う。例えば俺って、全然メンヘラの人の恋愛対象にならないし、基本、陽しか担当できない人間なんだと思う。でもさ、じっとりしたエロとか、どろどろの沼みたいなセックスみたいなのもあるわけだから、エロデュース会社を作ったら、陰の方を担当できるエロデューサーも必要だなって思ってるよ。
- 太田
- 「エロデュース会社」て(笑)。
自分は”アクセス”できるから、”エロデューサー”になった。
- 太田
- 佐伯は自分が陽の塊になった要因は何だと思ってるの?
- 佐伯
- それは孤独値の低さかな?と思ってる。
- 太田
- 全然孤独感を抱えていないってこと?
- 佐伯
- うん。社会人になって色んな人と話すようになって「どうも俺は家族にも親戚にもめちゃくちゃかわいがられて育って、孤独感を感じたことが極めて少ない」ってことに気付いたんだよね。太田の言うところの「情念」が土台からないというか。あ、これ話それちゃうかもだけど、話していい?
- 太田
- うん、いいよ。
- 佐伯
- 俺「孤独値が高い人ほど、クリエイターに向いてる」と思ってて。それはコルクで編集者をやってたときに気付いたんだけど、マジョリティとのズレがデカくて孤独感を感じて生きてきた人って、社会や周囲の人と「アクセスできない、でもアクセスしたい」っていう気持ちすごくあって、その熱量を作品にこめれるから、すごく刺さるものを生み出すんだよね。
- 太田
- なるほど。
- 佐伯
- 太田もゲイだったことが孤独値アップにつながったって言ってたよね?
- 太田
- そうだね。
- 佐伯
- 俺、実家で「坊ちゃま」って呼ばれるくらい愛されまくりだったから、自然と社会とアクセスできたというか、社会と自分との間に壁をあんまり感じたことがないから、コンテンツを通じてアクセスする力も欲もないんだよね。それよりも太田みたいなクリエイターに「君、面白いよ!!!」ってずっと言ってあげる立場が好きなの。
- 太田
- なるほどね〜。
- 佐伯
- だから話を戻すと、末井さんはそういう社会との接続を繋ぎとめる人がいなかったから、行き詰まってたんじゃないかと思う。めちゃくちゃクリエイターっぽい編集者だったよね。
- 太田
- そうね。だから「末井ぃ〜!」って励ましたいわけね。ちゃんと深みがあったんだ。でもさ、アクセスが苦手な人は、なんでコンテンツでは高いアクセス力を発揮できるんだろうね。一見矛盾してるじゃん。リアルでは生み出せないのに、なぜフィクションでは生み出せるのか。
- 佐伯
- それはたぶん、自分ができないからじっと周りのアクセスしてる人たちを観察してるからだろうね。
- 太田
- あ〜。
- 佐伯
- 「目の前で超いい友情が生まれてるな」とか「いい親子ってこうなってるんだな」っていうのは理解できて、それを考察しまくってる。その輪の中に入れないからこそ。
- 太田
- 入れてたらじっと見ないもんね。
- 佐伯
- そうそう。
- 太田
- じゃあ意外なんだけど、佐伯は自分のことクリエイターとは定義してないってことだよね?
- 佐伯
- うん。全然向いてない。クリエイターじゃなくてプロデューサーだから「エロデューサー」って名前にしたし!自分の役割は「個性的な性癖をもつ人たちに、全然その性癖いいじゃ〜ん!」って言って、一緒に面白いモノを生み出すことだと思ってる。
- 太田
- それ、言われたいもんなの?(笑)
- 佐伯
- 確かに言葉にするとヤバみあるね(笑)。でも、変わった性癖の人に話を聞いていくと、周りが興奮してる話で盛り上がれないし、自分って変なのかなって感じて孤独なんだよね。でも希少性がある話だから面白いし、シモの話に上も下もない。だから、取材して仲良くなるし、たまに「いいじゃん、いいじゃん、うちでこういうの書いてよ!」って執筆依頼したりもしてる。
- 太田
- 佐伯のメルマガヤバいもんね。これとか冒頭見て笑って閉じたわ。
■1.今週のポインティ
どうも~~~!好きじゃない先輩のちんぽ(細長い子供ドラゴンみたいなやつ)をフェラする夢をみて最悪な気分で今朝目覚めた、ポインティです!
諸事情があって、実際にちんぽを口に含んだことがあるのですが、思ってたより味しないんですよね。夢でも味しませんでした。記憶活かしてんな~…
はい!この話題はこれ以上広がらないので、今週のポインティいきます!
- 佐伯
- いや、閉じんな閉じんな〜〜〜?読んで〜〜〜?
- 太田
- 「記憶活かしてんな〜…」じゃねえよっていう(笑)。話戻すけど、佐伯はそんなにクリエイターを愛しててさ、自分は向いてないって思った時ショックはなかったの?
- 佐伯
- なかったね!高校のときに小説書いてみたことがあるんだけど「これで賞とかとったら受験せずに小説家になろ〜」って思ってたら、出す以前に自分で読んで、あんまり面白くなかったんだよね(笑)。
佐伯にとってのエロはワクワク!
- 太田
- そこでまた絶望しないのが佐伯らしいね。エロは何で好きなの?
- 佐伯
- なんでだろ、ずっと興味あったとしかいいようがないな〜。小学2年生のときに家族でフランス行った時にオカンとオトンに「ヌーディストビーチ行こう!」ってめっちゃ強く提案してたらしいんだよね。
- 太田
- 最高かよ。
- 佐伯
- 「家族で裸になるチャンスなんてないよ」「行こうよ」って言って。それ以外にも、幼稚園の時から隙あらばR18の暖簾の向こう側に行こうとしてたらしいし。隠されてると気になっちゃうよね。
- 太田
- マジご両親心配しただろうな(笑)。それは単に性欲が強いってことなのかな。
- 佐伯
- たまに、エロデューサーなんだから性欲強いんですね、的なこと言われるけど、そんなに性欲は強くないんだよね。けどね、好きなの。めっちゃ好き。エロい空気が好きだし、エロい人も好きだし、その空間も好き。今日の映画でも画面がいきなりピンク色になるラブホのシーンとか「オオオオオ!」ってなるんだよね。それは純粋にテンションが上がるとしか言いようがない。
- 太田
- つまり「ムラムラきて楽しい」じゃなくて「ワクワクして楽しい」ってことだよね。
- 佐伯
- それはどっちも!でもムラムラだけでないのは確か。映画とか漫画とか演劇とかエンタメが大好きなんだけど、エロについて話してるときも、エンタメを感じるの。人類初のエンタメは“セックス”と“戦い”だと思っていて、エロの、あの言葉にできないドーパミンがどばーーーっと出る感じが好き。戦いはあんまり好きじゃないけどな。で、既存の商品化されたエロコンテンツに対してあんまり興味がないんだよね、エンタメじゃなくて、ムラムラの処理を主眼に作られてるから。だからエロデューサーとして、もっとエロを皆で楽しめるエンタメコンテンツを増やしたいの。
- 太田
- なるほど…。なぜか熱い気持ちになってきたかも…。佐伯にとってエロは、ベッドの上の話なだけじゃないのね。
分かってくれない人に分かってもらおうとするの、時間もったいなくない?
- 太田
- エロっていうのはさ、ある意味ただのシモネタじゃなくて、大切な話として認識してる人もいるじゃん。エロをエンタメと捉える佐伯の活動は、そういう人にとってはある意味モラルハザードにもなりえるわけだけど、そういう人からのクレームとかはくる?
- 佐伯
- いまのところはないけど、これからは絶対あると思う。それは仕方ないよね。価値観が交わらないから。映画でも末井さんに電話があったじゃん、「子供が見たらどうするの!」って。あの二人絶対わかりあえないからね。あれに近いことは起こると思う。でも俺はわかってもらおうと思ってないんだよね。俺はエロスのコンテンツブランドを作って、そのコミュニティを作って、そこの一万人とかで楽しく過ごす予定だから。もしエロ本を作るとしても、そこの一万人に流通するエロ本だけでいいんだよね。
- 太田
- へー!「どうすれば分かってもらえるか」より「分かり合える人といる」ってことが大事なのね。今気付いたけど、僕はつい「分かってもらえる方法」にばっかり意識がいっちゃってるわ。
- 佐伯
- それ、時間もったいなくない?自分の好きな人か、自分のこと好きな人以外は結構どうでもいいなー。
- 太田
- か〜っ!強い。そう言われたらそうだって思った。なんか僕は「分かってもらえてない」という事象が、自分のトラウマをくすぐるのかもしんない。ゲイだってことを分かってもらえなかった思春期に「別にオッケーで〜す」ってなる人もいるんだけど、僕は長らく傷ついてたから。よくも悪くも「どうすれば分かってもらえるか」を考えてきた20代だった。
ほめられ上手な佐伯、ほめられ下手な太田。それぞれが見る末井さん
- 佐伯
- よくも悪くもっていうけど、全然悪いことではないよね。
- 太田
- ありがとう。でもさっきも言ったけど情念モードはもう上がったし、これからは上手に自分を可愛がる佐伯を見習っていきたい。佐伯って「自分は相手のことが好きだけど、相手は好いてくれてない」っていう時はどうしてるの?そういう状況あったでしょ?
- 佐伯
- あるある。あるけど、その時はやっぱり納得いかないね。「え、ポインティこんなにプリティで愛しやすいのに?どういうこと!?」って。
- 太田
- wwwww
- 佐伯
- で、結果自分から離れていくかな。自分がポインティのファン第一号だから、俺のこと好きな人に出会ったら「仲間じゃん!同じ人好きなんだね!気合うね〜!」みたいな感じなの。だから俺のこと好きにならない人には「あ、推しの趣味が合わないんですね、了解!今後も趣味は合わなそう!」って感じだね。
- 太田
- あんたって子は最高だよ本当…。じゃあ末井さんはさ、エロっていう文脈でも遠いし、愛され具合、自己肯定感においてもマジ対極にいたよね。
- 佐伯
- そうなんだよね(笑)。だから理解はできるけど、全く共感はできなかった。俺がもし末井さんと友達だったら「おもしろい雑誌つくってんじゃん!大丈夫だよ!」って褒めてあげたい。作品内で末井さんを評価してくれる人って近松とゆうこの2人しか出てこないじゃん。編集部の絆も全然ないし、誰も褒めてあげない。俺だったら全然「なになに〜!35万部とかヤバいじゃ〜ん!祝杯かまそう!!」って言ってあげるのに。
- 太田
- でもさ、人間誰しも褒められたいけど、褒められたら解決したかっていうとそうじゃないと思うよ(笑)。褒められずに大人になった人は、大人になって褒められても上手にそれを噛みしめられないんだよね。だから、ほめられてたら違った、っていうのは、褒められたことによって今がある佐伯の発想だと思うわ。
- 佐伯
- そうか〜〜〜〜!(笑)
- 太田
- 「褒められる」とか、身近な愛情をアテにできない切実さが35万部につながったのかなとか思うし。