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小野 美由紀
作家。著書に、銭湯を舞台にした青春小説「メゾン刻の湯」(18年2月 ポプラ社)「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版、2014)などがある。
https://note.mu/onomiyuki
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太田 尚樹
やる気あり美編集長。ゲイ。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。
- グレイテスト・ショーマン The Greatest Showman
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自身の生まれにコンプレックスを持ちながらも、商才に恵まれている主人公のP.T.バーナム。そんな彼がある日、起死回生のビジネスとして始めたのは、変わった外見や特殊能力を持つ人達を集めたド派手なサーカス。サーカスを成功へと導く途中で直面する数々の困難を通じて、バーナムは自分にとって本当に大切なものに気がつく。
2018.3.8


トピック多すぎなうえにミュージカル、置き去りにされるウチら、真顔。
この記事はネタバレを含みます。

- 太田
- あの、先に言っていい?
- 小野
- いいよ。
- 太田
- 僕マジで世界観に入り込めなくて、こんなに映画観て疲れなかったの久しぶりだったんだけど。
- 小野
- 笑。
- 太田
- スクリーンと自分の間に分厚い半透明のアロエがあって、ひたすらそれがボヨンボヨン言ってるのを聞いてたら終わった、みたいな…。みゆきはどうだった?
- 小野
- いや〜〜〜ほんっとうにつまんなかったわ〜〜〜。太田の言う通り今年度の「ベスト・オブ・ポカーン賞」早くも決定って感じ。
- 太田
- 笑。
- 小野
- やる気あり美には似合わないかもしれないけど、残念ながらこの映画に関しては悪口しか言えないわ。
- 太田
- いいよいいよ笑。どこが無理だった?
- 小野
- まずトピックが詰め込まれすぎ。トピック1:多様性、トピック2:人種差別、トピック3:貧困層と富裕層の対立、トピック4:フォーマルな芸術とアンフォーマルな芸術の対立……みたいに本来なら繊細に描かれるべきトピックがズラーーッとトピック50くらいまで一気に並べられて、でも結局全部がうっすーーい描き方しかされてない。
- 太田
- そうだよね。薄かったよね。
- 小野
- うん、サガミオリジナルかってぐらいに。
- 太田
- トピック多いとさ、一個一個のメッセージを乱雑に並べるしかなくなるよね。「おれらは家族だ」とか「芸術とは人を幸せにすることだ」とか、名言っぽい言葉を丼にドカドカ盛られて、「わ、なんか、とりま豪華卍〜!」みたいな。アロエの向こうが豪華だった。
- 小野
- だよね。もう全部が乱雑すぎて、ダンスと歌くらいしか褒めるとこないから、観終わった後に「……なんかダンスと歌、すごかったね!うん!」くらいの感想しか残らない。その上でストーリーの薄さを補完するために感動ワード乱用しまくるからもはや胃もたれだわ。
- 太田
- 胃もたれ笑。
- 小野
- 例えば、ヒュー・ジャックマンが演じる主人公バーナムは、最初は小人症の男性とか多毛症の女の人とか、黒人とか、物語の舞台である19世紀当時に差別されていた人々をサーカスの出し物として集めて働かせるじゃん。そこから次第に彼らと仲間としての絆を結んで行くわけだけど、その過程が全然描かれていない上に、「みんな違ってみんないいのだ」みたいなしょうもないうっすーい歌詞三行くらいだけに彼らの思いが集約させられてるもんだから、まったく説得力がなかったよね。
- 太田
- そうそう。まぁ、ミュージカル映画だし仕方なくもあるんだろうけど。
- 小野
- 太田はそこ優しいんだね。しかもこの映画って、一見、マイノリティとかバンバン出てくるし「多様性って素晴らしい!」みたいな歌がたくさん出てくるけど、実際はマッチョイズムの男のサクセスストーリーじゃん。
- 太田
- あー、でもそうとられるのも仕方ないかもね。「多様性」って言いながら、散々バーナム目線だから。
- 小野
- おっさんが欲出して金儲けのために綺麗なお姉ちゃん連れてきて逃避行して家族ないがしろにして結局不倫で炎上して破産して最後「やっぱり家族大事!子育てするね〜!」みたいな感じで終わってくの、全然ストーリーとして新しくもなんともないし、ただの「島耕作」やんけ!シンプルな「なりあがりのおっさんのサクセスストーリー」を描きたかったのか、「多様性」とか現代っぽいテーマを描きたいのか、どっちかにしろ!
- 太田
- www
- 小野
- もうね、『バリー・シール/アメリカを騙した男』見たときも思ったけど、「白人のおっさんがサクセス目指して一人で頑張る映画」がもはや時代的にしんどい。くたびれたち○こが一本で頑張る話、とか求めてないから。
- 太田
- くたびれたち○こ笑。おっさんの「独走」をなぜ今描くの?と。彼には「独走」じゃなくて何が必要なんだろうね。
- 小野
- 仲間。
- 太田
- 仲間か。
- 小野
- グレショーはその仲間の部分が描かれてるようで全く描かれてないから。「最初は利害関係で集った面々が、だんだん情が形成されていって、本当に仲間になる」っていうところだけで120分くらいで描いてくれたら面白かったのに。
- 太田
- そうだね。みんなが主人公のようで、バーナムが主人公すぎたかもね。
- 小野
- ポリコレに配慮して全方面に尻尾振った結果、全然刺さんない映画になってた。少なくとも私には。……ぶっちゃけ、この映画でよかったの、主人公と弟子のフィリップのブロマンスだけだったんだけど。ヒュー・ジャックマン演じる主人公が、若手の人気劇作家のフィリップを「うちのサーカスで働けよ」って口説くシーン、ぱっつんぱっつんの白シャツ着た男二人がバーカウンターで腰くねらせて歌い踊りながら「新しい世界に行かないか?」って……エ・ロ・す・ぎ・る・か・ら!!
- 太田
- BLとしての『グレイテスト・ショーマン』ね。
- 小野
- 火事場のシーンで主人公がフィリップを「お姫様抱っこして出てくる」のも「え、一体この二人に裏で何があったの!?」みたいな。
- 太田
- いや何もないけどな。
- 小野
- 本当そこだけだった。太田はどうだったの?
自分のマイノリティ性を、「個性」の箱にいれたいと思ったことない。
- 太田
- うーん、僕ゲイじゃん。
- 小野
- ゲイだね。
- 太田
- いち「分かりやすいマイノリティ」だからか、登場する「分かりやすいマイノリティ」のキャラクターたちには、自分を重ねて見るのね。
- 小野
- そうなんだね。
- 太田
- でも彼らに全然共感できなかったから、しんどかったかな。
- 小野
- なるほどね。
- 太田
- まず「マイノリティ性があったら、それは個性と捉えるのが正解」みたいな価値観をキャラクター全員から感じたんだよね。
- 小野
- 「みんな違って、みんないい」的なね。
- 太田
- そうそう。でも僕は、わざわざゲイという自分のマイノリティ性を「個性」の箱に入れたいとなんて思ったことないんだよね。今、結果として「ゲイの人」として世の中に認識されてるけど。
- 小野
- うん。
- 太田
- 最近、レズビアンの友だちがさ、キャリアメンタリングをする機会があったらしくて、その時にレズビアンだってメンターに伝えたんだって、そしたら「それはあなたの個性だし、強みにした方がいいよ」って言われたらしくて。
- 小野
- あー、そういうのすごくマジョリティ的発想だよね。
- 太田
- そうなんだよね。もちろんマイノリティ性を個性に、強みにしたい人はいるし、それはいいんだけど、したい人ばかりじゃないからさ。あとは、『グレイテスト・ショーマン』にでてくるマイノリティたちが「私はありのままで、叫ぶ!」ってスタンスしかとらないのも共感できなかったな。映画の軸となる曲は『This Is Me』で。曲自体はいい曲だけど。
- 小野
- そうなんだ。
- 太田
- うん。僕は世の中と手をつなぐために「ありのままで叫んできた」んじゃなくて「工夫して話しかけてきた」つもりだから。
- 小野
- なるほどね。
- 太田
- マイノリティとして「共感してもらえない」っていうことを経験してきているからこそ、自分は「共感してもらう工夫」にどん欲だった気がするのね。僕にとってその工夫は話術だったし、一時期はファッションだったし、色んな工夫を自分なりにしてきた。それってマイノリティなら誰にでもあるんじゃない?って思ってる。
- 小野
- 工夫かあ。太田前に「見た目のコンプレックスを笑いに変えてる人を尊敬してる」って言ってたじゃん。あれも、そこに本人の工夫があるからってことか。
- 太田
- そうだね。だから尊敬してる。
- 小野
- うん。
- 太田
- てか大丈夫かな?「映画みて楽しくお茶して記事にしよう、イェイ☆」くらいの気持ちだったのに、めっちゃ熱入ってきたわ。
- 小野
- いやいいでしょ。テーマ的に燃えるでしょ。私楽しいよ。
- 太田
- あ、ほんと。なら話を戻すと…。今回の劇中にもヒゲの濃い女性がいて、彼女は「歌がうまい」という、マイノリティ性とは別の特徴を武器にしてショーマンになるんだっていう工夫があって、それはすごくリアリティがあるなって思った。
- 小野
- うんうん、あったね。
- 太田
- でも、たとえば小人症の人はずっと引きこもってたのに「ショーに出たら軍服着れるよ」ってドア越しにバーナムに2回言われて「ぐ…軍服着れんの?」って出ていくだけで、あそこはもっと丁寧に描いてほしかったなぁ。
- 小野
- 笑。わざとらしいよねー。そんな簡単に口説かれんやろ!しかも彼、馬に乗せられてただ走るだけだしね…。
- 太田
- なんか、たとえば「ある日、バーナムが通りを歩いてたら、面白い漫談が聞こえてきた。急いで駆けつけると、高い台の上に乗って一人小人症の人が話している。漫談が終わり話しかけると『俺は見た目じゃなくて、話を磨いてきたんだ』と語り、それに魅了されたバーナムは、彼にサーカスの司会をしないかとオファーした」みたいな設定とか、ほしかった。
- 小野
- そうだね。それだったら表面的な特徴だけじゃなくて、その人のパーソナリティーが生きてくるもんね。他にも黒人の兄妹がサーカスの面接で「僕たち、嫌われないかな?」って言うシーンとか「そんなセリフ言わんやろ!」みたいなのの連続で、全くリアリティがないんだよね。
襲撃シーン、「突撃ー!」じゃなくて、今こそ歌って?

- 太田
- あとあれも嫌だったわ。嫌だった話続けるのも微妙だけど。サーカスをつぶしたい連中とサーカス団がケンカになるシーン。
- 小野
- あー、殴り合いのシーンか。
- 太田
- テントに襲撃にきた連中に「突撃ー!」とか言ってみんなで襲いかかるわけだけど、「徒党を組んで、嬉々として反撃する」って、報復でしかないから僕は滑稽なことだと思ってるし、そういう存在としてマイノリティを描くのか、と。対話で追い返す、とかそういうことをやってほしかった。
- 小野
- たしかにね。
- 太田
- たとえば巨人症の男性がとつとつと「ぼくがこのサーカスに来たばかりの頃…」と語り始めて、みんながその話に感動しちゃう、みたいなさ。あー、でもそれはちょっと崇高すぎるのか。その意味では「嬉々として反撃する」くらいがリアルなのかもな笑。
- 小野
- いや、てかさ、今こそ歌えよって話じゃない?
- 太田
- わろた。
- 小野
- 芸術とは何かを問う映画なんだからさ。
- 太田
- 完全にそれだわ。歌って解決してほしかったね。連中はレイシストなんだから、そんなのでじーんとこないのかもしれないけど。でも最終的にボコられて反撃するとしても、そういう工程を挟んでほしかったんだよね。あんなんじゃ、ガンジーが泣くじゃんっていう。
- 小野
- 笑。はぁ、やっぱりつくづくブロマンスシーン以外いいとこないように思えてきたわ。
- 太田
- たしかにブロマンスは永遠に観れる最高さだったけど。