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佐伯ポインティ
エロデューサー。1993年、東京生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業後、クリエイターのエージェント会社コルクに漫画編集者として入社。2017年に独立し、男女楽しめるエロスのあるコンテンツをつくる「エロデューサー」として活動を始める。ポジティブに猥談を楽しむ人が集まる「猥談バー」というイベントをしたり、様々な性癖・性体験の人をインタビューし「猥談タウン回覧板」というメルマガを配信したり、エロい仕事ばかりしている。
Twitter:https://twitter.com/boogie_go
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太田 尚樹
やる気あり美編集長。ゲイ。ソトコトにて「ゲイの僕にも、星はキレイで、肉はウマイ。」を連載中。
- 素敵なダイナマイトスキャンダル
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幼い頃に「母が隣の家の息子とダイナマイトで心中」という体験をした末井昭。 高校を卒業しグラフィックデザイナーを目指す彼は、ひょんなことからエロ雑誌業界に足を踏み入れる。 様々な経験の末、彼は編集長となり、担当する雑誌の発行部数は30万部を越える。その時、彼が思うこととは。 70年-80年代の風俗事情と共に彼の人生を描いた自伝的映画。
楽しい仕事なら、楽しく仕事したら?
この記事はネタバレを含みます。
実は、歩くダイバーシティみたいな佐伯。
- 太田
- 佐伯はそれだけ「陽」育ちなわけだけどさ、陰っぽい人が好き、面白いって思うのは自分と正反対だからっていうことなの?
- 佐伯
- それね。最近、自分にとって誰が面白いのかって考えてて。穂村弘が「世界像」という言葉を使ってたのだけど、面白いと思える人って、自分と相手の世界像の差がどれだけあるかだなって思ったんだよね。
- 太田
- 世界像の差。
- 佐伯
- うん。世界の捉え方の差ってことね。たとえば俺はこれをただの醤油入れだと思ってるけど「うわ、めっちゃ尻に挿れたい」って思う人もいて、「えーーーー見えてる世界の距離遠っ!!!その話きかせて〜!!」ってなる。
- 太田
- いや、これは醤油入れだな?
- 佐伯
- その距離の遠さで面白さをはかってるなって思う。違うこと自体が面白いの。だから暗い人にもひかれるし、孤独な人にもひかれる。うわ〜世界の見え方違うんですけど!って。俺、付き合ってる彼女と全然似てないんだけど、そこがめっちゃ好きだしね。
- 太田
- あんた、実は歩くダイバーシティーみたいな所あるんだね。
- 佐伯
- 理解したい!って思う。全然共感はしないけど。
「面白い」が全てだし、全ては「面白い」はず。
- 太田
- 佐伯ってさ、「せつない」とか「泣ける」とかで興奮することあるの?
- 佐伯
- 興奮って性的に?
- 太田
- ちがうちがう。なんか、佐伯の気持ちの高ぶりって全部「面白い」なんだなと思って。それがやっぱ変わってるんだと思う。僕は逆に「せつない」の比率がやたらと高い人だけど。
- 佐伯
- 俺も「せつない」って思うことあるよ?
- 太田
- いや、完全に笑ってんじゃん!(笑)
- 佐伯
- でも本当に「面白いor not」が一番なのは、すっごくそうだね!だから何か行き詰まったら「寄りで見ると悲劇だけど、引きで見ると喜劇」って考えるの大事にしてる。
- 太田
- 佐伯に悲劇とかある…?
- 佐伯
- いや、全然あるよ!(笑)。でもミスっても、3年先くらいから見て「お、なにミスってんの〜ウケなんですけど(笑)」って思うクセがついてる。そういう意味では冷めてるのかもしんないね。だから「我を忘れて怒る」とかにはちょっと憧れる節さえある。ある友達が、居酒屋で彼氏が浮気デートしてるのを偶然発見しちゃって、我を忘れて店中に響き渡る声で「みなさ〜〜ん!この人浮気してまーーーーす!!」って叫んだらしいんだけど、そういうのとかいいな〜〜〜!って思うし。
- 太田
- どういう例だよ(笑)。でも「喜劇であることを譲らない」っていうか、そのスタンスは素敵だと思うし、佐伯の「面白い」は、懐のおっきい捉え方だと分かったわ。これまで「マジ軽薄だなこいつ」って思ってたけど。
- 佐伯
- こら〜〜〜〜?
- 太田
- 佐伯のなんでも面白がろうとする姿勢って、悲劇に飲まれない強さでもあるし誰かを排除しない優しさでもあるし、その懐のおっきさが、今やってるエロ仕事の人気にもつながってるんだろうね。佐伯のコンテンツって意外と見てる人はホッとしてたりすんのかもね。
- 佐伯
- それ、すげー感想として返ってくる!
- 太田
- やっぱそうなんだ。
- 佐伯
- 自分では「救うためにやってる」とかは全くないんだけど、「ポインティさんのエロに救われました」「すごい安心しました」とかはよく言われる。俺としては「ありがとう〜」くらいの感想しかないけど(笑)。
- 太田
- 「救ってやろう」みたいな図々しいスタンスじゃないからこそ救われるんだろうね。
LGBTであってもなくても、話してみてピンとこなけりゃ、ぶっちゃけ興味ない。
- 佐伯
- そういえば俺さ、最近夜中に太田にめっちゃ電話したじゃん。
- 太田
- うん、したね。寝てたけど。
- 佐伯
- あの直前に、ゲイバーで飲んでてさ、めちゃくちゃ嫌なことあったんだよね。
- 太田
- おー…!そうだったのね。
- 佐伯
- なんかめっちゃ無視されただけなんだけど。最初は友達もいてお店の人も喋ってくれてたのが、友達が帰って俺一人になってから明らかに無視され始めて。その後7人組のお客さんが来たんだけど、そのお客さんからも離れた席に移動させられて、帰るしかなくなったの。ノンケ差別を受けたんだよね。それで寂しく店を出て、太田とトムくん(ポインティと太田の共通の友人のゲイ)のことが頭に浮かんでさ。2人が社交的でオープンで超いいやつだから、なんだかんだゲイの人は皆そうって思い込んでたんだなーって気付いたんだよね。「そりゃ違う人もいるよね、ノンケなんかと話す理由ないって思う人もいるよね…」ってその時に思って、トム君と太田が仲良くしてくれてることに感謝が芽生えて電話した(笑)。
- 太田
- wwwww
- 佐伯
- 二人とも色々あった上で今のスタイルになってるんだなって、分かってはいるつもりだったけど、実感したんだよね。
- 太田
- 遅ぇよ!(笑)
- 佐伯
- それで太田は電話に出ないじゃん。1人で歩いてたら、店内で受けたノンケ差別を思い出してきて、「でも彼らは、これまで学校と会社とかでノンケに差別されてきたかもしれない…」とか考えたら、酔っ払ったのもあったけど泣けてきて。歩きながら号泣してる状態で歌舞伎町歩いてると、キャッチの人でさえ声かけてこないわけ。「誰も声かけてくれないし…」と思ったら更に泣けてきて、久しぶりにギャン泣きしたわ。
- 太田
- ありがとう!いや、ありがとうなのか…!?
- 佐伯
- なんか「お母さんの知られざる努力を知って泣く」みたいなのあるじゃん。俺が思ってるより2人の愛は深かったんだ…って思って、凄い泣けたんだよね。めっちゃ酔っぱらって共感スイッチがガバガバになってるからか、その後家帰って大森靖子聴いたら「めっちゃ怒りながらも頑張ってる…尊い…」ってなって、また泣いたし。
- 太田
- 大森さんは大きなお世話だろうけどね。でもそれはLGBTについて考えが深まるいいきっかけになっただろうね。
- 佐伯
- そうかもね。
- 太田
- でも佐伯ってそういう体験をするまでも、LGBTについての話、すごい興味深く聞いてくれてたよね?「LGBTを受け入れたい」みたいな意志はずっとあったの?
- 佐伯
- あったね。でも意志っていうか、俺にとって見てる世界が違う人は皆「面白い」の対象だから、当然LGBTの人もその対象になるって感じかな。ただ、それは相手に「オネエキャラ」とかを求めてるわけじゃなくて、俺と相手との関係の中で「面白いこの人!」って感じるかだけが大切なの。だから、別にLGBTの人でも、話してみてピンとこない人には、ぶっちゃけ興味ない。
- 太田
- なるほど…。まあでもそれはLGBTだけじゃなくて、全ての人に対してってことだもんね。オトコとかオンナとかLGBTとか、タグは参考にするけど、アテにはならないよね。
エロの話を聞き続けて感じる男尊女卑
- 佐伯
- そう、アテにならないんだよね。俺の場合、いろんな人の性癖とか性体験を聞く機会があるわけだけど「女の性欲」とか「男の性欲」とかの区別って全然アテにならない。そこを分けて語りたがる人ってよくいるけど、そういうの古くない?って思う。
- 太田
- その話も聞きたかったんだよね!末井さんが作るエロ雑誌は、男性のみ対象としたものだったから仕方ない部分も少しはあるけど、女性を消費するような描写が笑い話みたいに出てくるじゃん。グラビアの女の子のパンツの生地を勝手に薄くしたりさ。佐伯って今そういうエロの世界観じゃないじゃん。
- 佐伯
- 全然違うね。
- 太田
- だから、そこを佐伯はどう思ったのか聞きたかったんだよね。
- 佐伯
- とにかく、社会全体が「女の性欲」に対する捉え方が雑すぎるというか、身構えすぎてると思う。そもそも女だからどうこう、じゃなくて、男の性欲も女の性欲も同じで、人それぞれ強い人も弱い人もいるし、なおかつ強い日も弱い日もあるっていうだけ。男女って身体の構造が違うだけで、同じ人間なんだから「女だから恥じらうべき」とか「男だからスケベ」とか、そういうのって「黒人だから下等」と同じレベルの認識じゃんと思ってる。どう考えても面白くないし、古いし、なくなるべき。でも俺は活動家になりたいわけじゃないから、自分が作るコンテンツとカルチャーで刷新できるといいなって思ってる。
- 太田
- やっぱ現代のエロの現場でも、そういう男尊女卑みたいなのは感じるんだね。
- 佐伯
- うん、男女共に、心の奥にある男尊女卑って強いんだなって話聞いててよく思うよ。例えば、超分かりやすい話でいうと、女の子が好きな先輩とようやっとワンチャンできました、って女友達に話したら「ちゃんと自分の身体は大事にした方がいいよ、都合いい女って思われちゃうよ」って言われたって話があって。その子からしたら「いや、こっちが都合よくセックスしてんだよ!!」みたいなね。性別の話じゃなくて、どっちが誘ってるかっていう精神の話じゃんっていう。そういう話に物申したい気持ちはなくはないけど、俺はそれだったら1本でも多くコンテンツを作ろうって思う派なの。
- 太田
- なるほど。佐伯にとっては「面白い」が大事だしね。
- 佐伯
- そうそう。だからこんな自分が考えてることを話すのもなかなかしてこなかったし、今日は新鮮だった!めちゃ真面目な話しちゃったよ〜!
- 太田
- いや、僕こそ「佐伯って深みのある人間なのかも…」って新鮮さしかない一日だったわ…。
- 佐伯
- もっと言ってもっと言って!!深みを味わって〜!
- 太田
- 佐伯は、これからどうしていきたいの?
- 佐伯
- めっちゃ流すじゃん(笑)。俺はさっきも言ったように、同じ思想のエロい人たち1万人にコンテンツを届けるにはどんなエロデュースをしていくといいのか、試しながらやっていきたい。1万人くらいに届けられるようになったら、クラウドファンディングすると予算規模が大きいことも色々実現できちゃうよね。エロい食材を出すレストランつくりたい人がいたら協力できるし、エロい演劇とか映画を創りたい人に出資できるし…色んなエロい人の企画を実現できる。色んな人のエロスを活性化しつつ、みんなで一緒に楽しみながら色んなエロデュース企画をやっていきたい!直近は”猥談ポータルサイト”とか、”猥談バー”やりたい!
- 太田
- めちゃ色々やる気じゃん!やる気あり美!!!
- 佐伯
- やる気あり美だよ!!!
- 太田
- でも佐伯がこれからの日本のエロ産業を支えていくと思うと、なんか希望を感じるわ。もっと男女関係なくハッピーになれるものにしてほしい。
- 佐伯
- ありがとう!太田こそ、情念あがりだからこそつくれるものをつくっていくんだと勝手に思ってるから、めちゃ楽しみにしてるよ!!
なんと!
佐伯くんは現在、記事内でも出た「猥談バー」の実店舗をオープンさせるべく、クラウドファンディングに挑戦中です(やる男ですね…!)。ポインティのエロデュース企画、楽しそうかも…と思った方は、ぜひとも下の画像をクリック!
- 僕は、大きな赤子のようなもので、あまりバリバリ働く感じじゃないのですが、人一倍よく笑います。あと身体も大きいです。何が言いたいかというと、猥談バーに来てくれたら、一緒に笑って猥談しましょう、ということです。もし興味が湧いた方、クラファンページ見てみて下さい。僕の可愛い写真がいっぱい貼ってあります!
編集後記
今回はチャーミングが溢れる佐伯君のインタビューでしたが、いかがでしたか。
撮影中、僕は楽しそうにエロを語る佐伯君がケンコバに見える瞬間が何度かあり「そういえば、テレビの中でも現実でも、人気者はエロい話を自然に話して周りを楽しませるよなあ」なんて考えていました。
エロい話って自己開示をする勇気が必要だし、一歩間違えるとやりすぎだったり、話題としての難易度が高すぎると思うんですよ。
それを気楽に話せる人って相手の懐に入る愛嬌と、踏み込んではいけないラインを把握する賢さを兼ね備えているんですよね。そりゃあ人気も出る。
一方、僕にはそんな素養はなく、本当は大好きなモジャモジャ胸毛の魅力について誰かと語り合いたいのですが、結局出来ないままアラサーになってしまいました。
同じように「シモネタを楽しみたいけど、楽しめていない人」って沢山いると思うのですが、「猥談バー」はそんな我々にぴったりな場所なんじゃないでしょうか。その場にいる全員がエロにウェルカムという前提があると、難しいことを考えずに気楽に楽しめそうだし。
長々と書きましたが、そんなワケで僕も佐伯くんの「猥談バー」全力応援しております。エロネタの達人も初心者も興味があったら応援してあげてくださいね!(がんばれ~)