やる気あり美

【後編】僕らは“LGBT”とまとめられて、まとまってみることにした

〜トランスジェンダーの井上さんと、ゲイの太田が、農家をはじめるまで〜

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「担い手の減る一次産業と、ありのままで働きたいLGBT当事者のマッチング」という可能性

太田
そんなわけで、ここまで井上・太田それぞれのLGBTコミュニティ経験について語ってきたわけですが(前編 / 中編)、お互い農家を作ろうとしていると知った時はビックリしましたよね。
井上
びっくりしたね!
太田
井上さんの方が僕らよりも先に取りかかってましたけど。農家を始めることにしたきっかけはMtF(エムティーエフ、Male-to-Female:生物学的性別が男性で、性自認が女性)の方から来た相談があったことなんですよね?
井上
そうだね。あるMtFの方から「会社をやめました」って連絡がきたのがきっかけ。その方は入社する時に自分が性同一性障害であることをカミングアウトしていて、これから性別を変えることもオッケーと言われていたんだけど、でも実際かえてから陰口を言われるようになったり、居づらくなってしまったと。もちろんセクシュアルマイノリティの中にも快適に働けている人はいるけど、やっぱりまだまだ僕らを取り巻く職場環境って課題だらけなんだなと実感して、「ここでなら、ありのままの自分で働ける!」という場所を作りたいと思ったんだよね。
太田
とりわけトランスジェンダーの方は、僕みたいなシスジェンダー(生まれた時に診断された生物学的性と自分の性自認が一致している)のセクシュアルマイノリティより「見た目」に関して何か周りに言われることが多かったり、それがいじめにつながる可能性が高いですよね…。
井上
傾向としては、そうかもしれないね。
太田
なんか「なりたい自分を目指す」って、人間の最高にキュートな行為の1つだと思うんですよね、僕。それを誰かが否定するのは本当にやめてほしいって思う。ずっと着てみたかった服に袖を通す瞬間とか、新しいお化粧を取り入れてみる胸の高鳴り。そういうのって、LGBTだってなんだって一緒じゃないですか。「素敵だねって言われるかもしれない」そう鏡の前で思う時って間違いなく人生の光なのに、それがきっかけでイジメられるなんて本当に悔しいなって思います。
井上
本当その通りだよね。なんか、そう言ってもらえて嬉しいよ。
太田
いや…ダメですね!なんか熱入っちゃってすみません。この対談を全うせねば!(笑)この話もまたじっくりしたいですが、話を戻して。その「ありのままで働ける職場」をなんで農家にしたいと思ったんですか?
井上
ありがとう。それは、まずシンプルに僕が自然が好きだからだね。
太田
なるほど、めっちゃいいですね!
井上
自分にとって、自然から得る癒しって本当に重要で。もともと僕は何かを始める時、社会貢献性があってビジネスとしての可能性もある、そして自分が心から好きと思えることしかやらないって決めてるんだけど、「LGBTでも働きやすい農家を作るって最高だ!」と思った。一次産業は担い手が減っていく一方で、LGBTは働ける場所を探している人がいる。そこがマッチングして、しかもその農家で作った米を買ってくれている人たちが農家に遊びにこれる態勢を作れれば、彼らの癒しにもなる。これはやらなきゃ!と思ったんだよね。
太田
色んな方に応援される農家を目指したいですよね。そして応援してくださる方も癒される場所にしたい。
なぞに恥ずかしくなってめっちゃチキンたべましたが、おいしかったです

偏見をなくすことは難しくても、きっと偏見をこえてつながることはできる

井上
太田はどうだったの?
太田
まず、僕は井上さんがもってる課題感やビジョンに関して全て共感しているんですけど、それに追加して僕が農家を始めたいと思った理由は、色んなセクシュアリティを持つ人が「みんなで栄えるコミュニティ」を作るのに挑戦したかったからなんですよね。あとはそれを地方でやりたかった。だから農家がいいなって。…完全に分かりづらい話してますね(笑)
井上
そうだね(笑)、もうちょっと詳しくききたい。まず「みんなで栄えるコミュニティ」ってどういうこと?
太田
なんというか、これまでLGBTのコミュニティって、困ってるLGBT当事者を「助けよう」というものが多かったと思います。そのコミュニティを通じて、助けられる人と助ける人がいた。そういうコミュニティってとても重要だと思うんですけど、僕は、何かを一緒に作る中でともに成長したり、一緒に達成感を味わったり、そういう「みんなで栄えるLGBTコミュニティ」づくりがこれからは重要なんじゃないかな、と思っているんです。助ける側と助けられる側が向き合うというより、一緒に肩を並べて目標に向かっているうちに仲間になっていくような、そういうコミュニティにしたいなって。
井上
なるほど。そう思うようになったのはなんでなの?
太田
それはもう、この2年『やる気あり美』をやってみての実感からですね。僕らは『キッチン』っていうイベントを小さく続けてきたんですけど。
『キッチン』トークセッションのひとこま
太田
このイベントの参加条件って「多様なセクシュアリティを受け入れたい人」なんですね。「LGBTについて正しく理解しているか」よりも、参加者の「受け入れたい」というハートを信頼して続けてきたんです。参加した方は、いざ始まってみると隣の人がLGBTなのか何なのか分からないんですが、みんなで一緒に制限時間以内に決められた料理を作らないとダメで。その中で自然と女の子が「最近彼女と同棲をはじめて」とか言い出したりして、色々分かってくる、みたいな。手前味噌で恐縮ですけど、すごい気持ちいいイベントなんですよ。色んなバッググラウンドの人が集まると、それぞれ互いに「偏見をもたない」なんて限界がある気がするんですけど、でも一緒に何かを一生懸命つくってると、なんか偏見とかこえちゃってつながった感覚がある。それってめっちゃ重要なことだなって思うようになったんです。だから「みんなで栄えるコミュニティ」っていいよねと。

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