【前編】僕らは“LGBT”とまとめられて、まとまってみることにした

〜トランスジェンダーの井上さんと、ゲイの太田が、農家をはじめるまで〜



井上さん、女の身体で生まれ、“男になる旅”をはじめて、今どこまで来たの?

太田
じゃあ、僕からも質問していいですか。なんでも聞いていいということで、僕もぶっ込んだこと聞くんですけど、井上さんの“男になる旅”って、もうゴールしたんですか?

20170512_170518_0047こりずに再開してみる
photo by 赤坂久美

 

井上
なになに、どういうこと?
太田
いや、女性の身体で生まれて、ずっと男性になりたい…、というか正確には戻りたい、と思って生きてきた井上さんにとって、今の自分の状態って「男になれた」なのか「男にまだなれてない」なのか、どこまできたのかなと思って。今見た目でいくと完全に男だと思うんですけど。
井上
なるほど〜。そうだなぁ、難しい質問だけど、戸籍変更は一つの“男になる”のゴールだったかな。その意味では一回ゴールはしてるかも。

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太田
あぁ、やっぱりそこなんだ。そこまで行った時の達成感はやっぱりすごいもんですよね、きっと。

20170512_170518_0041太田28歳、なめてかかったバドミントンにマジで翻弄される

 

太田
……ていうか、分かりました、やっぱバドミントンやめましょ。
井上
そうだね。完全に話に集中しづらいね(笑)。

 

 

しばし、場転タイム

 

 

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井上
で、戸籍変更の達成感はあったよ。そこで一つやりきったなって思った。
太田
変更前と変更後って生活レベルでは何が変わるんですか?
井上
あー、たとえば戸籍変更前にジムに通おうとしたことがあったんだけど、今と同じ身なり、声の低さになってたのに、戸籍が女性だから女性用更衣室を使ってくれって言われたりしたね。
太田
えええええええ……。同じ更衣室の女性が戸惑いますよね!
井上
そうなんだよね。さすがにそれは無理じゃん?「逆にそっちが困りますよ?」って言っても「いや、ヒゲとか剃ってもらえれば」とか言われて。だから結局すぐ解約したんだけど。
太田
でも肩を持つわけではないですけど、ジム側も知識もないし、困惑したんでしょうね。
井上
そうだよね。だから責めることはできないけど、あれは「まだやっぱり俺は男になれてないんだ」と思わされた機会だったね。だから戸籍を変えた時は嬉しかったね。

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「男の見た目」と「男の戸籍」を手に入れた後は、「男の過ごし方」を身につける日々に

太田
そうか…。「一つやりきった」とさっき言ってましたけど、やっぱり“男になる”の第一段階は終わっても、その後もその旅は続いたんですか?
井上
そうだね。社会的に男として生活するようになって1年くらいは戸惑いはあったね。本当に生活が結構変わるから。当時は男ってどう過ごせばいいんだ!?と気にし過ぎていたと思う。たとえば男子更衣室とかもはじめて入るわけじゃん。そしたら「男ってこうやんなきゃいけないんだ!」みたいな気付きがあるわけだよね。いや〜、女性の更衣室の方がやっぱりキレイだな〜とかも思ったし(笑)。
太田
なるほど。「男の見た目」と「男の戸籍」を手に入れて、次は「男の過ごし方」を身につける日々が始まったんですね。
井上
そうだね。周りから自分は自然な男って見えてるのかな、とかすごく気になってたなぁ。男の人の所作も研究したしね。でも大変なこともあったけど、すごく面白い1年だったなって思う。“男を取り戻す”までのフェーズの方がよっぽど大変だったから。
太田
いやー、でも、「男の過ごし方」みたいなものって実際あるんだと思うし、そりゃ分かんないに決まってるわ。ずっと女友だちの方が多かったんですよね?

20170512_170518_0125photo by 赤坂久美

井上
そうだね。周りも女性が多かったし、自分もやっぱり女性として扱われてきたしね。分かんないことだらけだった。
太田
その勉強期間は大体1年で終わりました?
井上
いや、まだ未だに学ぶことはたくさんあるよ!戸籍を変えて5年経つんだけど、女性時代の方が言っても長いからね。今も女の人の話の方が聞き慣れてる感覚があるし、男性と話してるよりも女性と話してる方が共感できる点も多い気がするしね。
太田
あ、でもそれ井上さんと話してると分かりますね。なんかちょっとゲイっぽいというか?
井上
ゲイっぽい(笑)

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太田
なんというか、今一緒にプロジェクトの準備をしていると、女性的な考え方するなって思う時があるんですよね。人間関係のケアにめっちゃ重点を置きますよね、井上さんって。いや、それ別に女子とか関係ないのかな!ただの井上氏の優しさかも!(笑)
井上
たしかに分かんないよね(笑)。でも、なんとなく自分でも「女性的だな」と思う面はあるから、言ってる意味は分かるよ。でも自分のそういう面を認められたのもこの数年だね。それこそ治療をはじめたての若い時とかは「俺は男だ!」っていうことにすごく固執していたし。今は女性との方が話しやすい自分もいいなって思うし、自分らしさを掴めてきたのかもしれないよね。
太田
「男らしくなろう」から「自分らしくあろう」に向かっていってるんでしょうね。
井上
そうだね。なんか「戸籍変更したら、本来の性別(男)として生きられる!」というのが昔はずっと希望だったけど、やっぱり戸籍変更したからと言って自分の内面がガラッと変わるわけではないし、結局男性器がはえてくるわけでもないから、自分は自分なんだよね。どうやっても変われないことも含めて自分を愛していきたいなって思うよ。
太田
めっちゃええこと言うがな……。まぁ、ていうか「完全な男」ってなんやねんって話でもありますよね。僕は男性器ついてますけど、健斗さんの1000倍かわいいですしね。
井上
また本当、変なこと言い出すね(笑)。

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中編に続く

  • 自分に合うコミュニティを探して、説教されて帰った井上さん
  • ゲイの自分は“イケてない”と思って、必死だった太田少年
  • 「心」に訴えかける何かは、きっと人を変える
  • 「共に何かをつくれば、分かり合える」という信念があった
  • これからどんなコミュニティにしていきたいか

 

後編に続く

  • 担い手の減る一次産業と、ありのままで働きたいLGBT当事者のマッチングという可能性
  • 偏見をなくすことは難しくても、偏見をこえてつながることは、きっとできる
  • 多様なセクシュアリティの人が「ともに作るから、分かり合える」コミュニティをつくりたい

 
 

 

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